生活習慣病 | 食中毒 | 糖尿病 | インフルエンザ |
がんの早期診断と予防 | 尿路結石 | 結核緊急事態宣言 | 高血圧は怖い? |
検診における検査の目的と見方・読み方 その1 | 検診における検査の目的と見方・読み方 その2 | 前立腺癌 | 睡眠について |
睡眠障害について(不眠症) | 高脂血症(ドロドロ血液) |
「生活習慣病」という言葉も耳慣れてきておりそれこそ生活の中にもその概念が定着しつつあります。高血圧や動脈硬化、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病など、いわゆる「成人病」と呼ばれていた病気は、その多くが生活習慣と深い関わりがあります。そこで近年、これらの病気を「生活習慣病」と呼び改めるようになったわけです。生活習慣病という概念は、国民一人ひとりが生活習慣を改善することによって、病気の発症や進行を予防することが出来るという認識を高め、生活習慣の改善を積極的に実行し健康な生活を送るということを含んでいます。生活習慣病にかかわる原因として、環境因子とか遺伝因子など複数の要因が複雑に関与しています。しかしそのいろいろな要因の中で最もかかわりが深いのが生活習慣そのものなのです。では、どのような生活習慣がどのような病気とかかわってくるのかを簡単にまとめましょう。
・高塩分食・・・塩分の摂り過ぎは高血圧や動脈硬化を促進し、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの危険性を高めます。
・過食・高脂肪食・・・食べ過ぎや脂肪分の多い食事は肥満を招きます。肥満は高血圧、糖尿病などあらゆる生活習慣の要因となり、脂肪分の摂り過ぎは高脂血症につながります。
・ストレス・・・過度のストレスは高血圧や心筋梗塞などを招きやすくすることが明らかになっています。また最近ではストレスが免疫を低下させ、がんの発症率を高めているともいわれています。
・喫煙・・・喫煙は肺がんなどがんを発症させる大きな要因となります。また喫煙は動脈硬化を促進し、心筋梗塞の発症を高めることもはっきりしています。
・多量飲酒・・・アルコールの飲み過ぎは肝臓病の悪化を招きます。また、膵臓にも負担をかけ、慢性膵炎や糖尿病の悪化も招きます。さらに痛風とも関係しています。
さて皆さんはどうでしょうか。一つひとつチェックしてみてください。少なからず心当たりのある人がほとんどではないでしょうか?まずはできることから改善してみませんか!
いよいよ夏本番です。毎年この季節に注意を要するのが食中毒です。 食中毒は、昔は「食傷」あるいは「食あたり」と言われ、生活環境と衛生知識の低さや食料不足から、汚染したもの、腐敗したものを食し夏場に多発したものです。最近において、衛生状態が改善したにもかかわらず発生件数は増加しているのが現状です。 人体に有毒な細菌や物質を含んだ食品を摂取することにより発生する消化管を主体とした疾病を総称して食中毒といいます。現在、細菌性食中毒の起因菌として認定されている菌は、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、病原性大腸菌、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、ウエルシュ菌、カンピロバクターなど15種類にのぼります。 今回は日本において頻度の高い「腸炎ビブリオ」と、数年前に大流行して以来有名な大腸菌となった「O157」を取り上げてみます。 [腸炎ビブリオ] 腸炎ビブリオ菌による食中毒は、サルモネラ菌に次いで多く、食中毒の1/3を占めます。ビブリオ菌は海底の泥や魚介類に好んで住む菌です。そのため生の魚介類を好んで食する生活習慣をもつ日本において多く見られます。ビブリオ菌は塩分と温暖な環境を好み、20°C以上になると活発に増殖を始め、6~10分で約2倍に増えます(一般の細菌は2倍に増えるのに30分~1時間かかります)。原因となる食べ物を食べてから症状が現れるまで(潜伏期)は、3~40時間と一定ではありませんが、潜伏期が短いほど重症化する傾向があります。 予防のポイントは 魚介類はよく水洗いする・・・菌は真水に弱く、調理前によく水で洗い、菌を洗い流し殺菌します。 低温で保存し、なるべく早く食べる・・・買ってきた食品はすぐに冷蔵庫に入れて菌の増殖を抑えます。 加熱調理する・・・菌は熱に弱く、加熱により容易に死滅します。 調理器具を消毒する・・・魚介類を調理した後のまな板や包丁、ふきんなどは熱湯や洗剤で十分に消毒します。 [O157] O157は牛の腸に住む大腸菌の一種です。牛には影響を与えませんが、人に感染すると3~7日の潜伏期を経て症状を現します。まれに「ベロ毒素」という毒素が腎臓を傷害し「溶血性尿毒症症候群(HUS)」を引き起こし、時に命にかかわることもあります。 O157の感染力は大変強く、他の菌が数万~数百万個で症状を起こすのに対し、50個くらいの菌が体内に入るだけで症状を起こします。このため人から人への「二次感染」が多く、家族内感染がかなりの率で見られます。 予防のポイントは 食品はよく加熱する・・・75°C以上で1分間加熱することを提唱します。生肉の摂取は控えます。 感染者の便の扱いに注意・・・必ず便捨ての手袋を用い処理後は丁寧に手を洗います。 食中毒を防ぐためのポイントは 病原菌を付けない・・・食品をよく洗う 病原菌を増やさない・・・食品を冷蔵庫で保存、早く食べる 病原菌を殺す・・・食品を高温で加熱調理する の3つになります。 私たちの食卓に上る食品は、様々な経路を経て届けられます。食品の安全性を過信せず、自分の力で病原菌から身を守りましょう。
さて、前々回に“生活習慣病”についてのお話をしました。今回はその中のひとつ“糖尿病”についてお話をしましょう。 糖尿病の患者様は近年急増しており、現在日本では、程度の差はあれ中高年の方の10人に1人が“糖尿病”であるとも云われます。糖尿病は血液中のブドウ糖の値(血糖値)がある基準を越えて高くなる病気です。血糖値が高い状態が長い間続くと、血管壁が傷つき、様々な血管の合併症に伴う全身の臓器の合併症が起こってきます。 糖尿病が恐ろしいのは自覚症状がなかなか現れず、突然合併症が引き起こされることです。そのため合併症が現れてから初めて糖尿病と気付き、治療を開始する患者様もたくさんみえます。 糖尿病を早期発見するためには・朝食を摂る前の空腹時血糖検査、・食事前後に関わらず任意の時間での随時血糖検査、・約1ヶ月前の血糖値の平均値をあらわすという糖化ヘモグロビン検査(ヘモグロビンA1c)等の検査、・また正確な診断のためにはブドウ糖負荷試験等の検査を定期的に受け、もしも“糖尿病”と診断されたら、早いうちから食事や運動など生活習慣の改善を中心とした治療を始め、合併症を防ぐことが大切です。 糖尿病の治療の基本は食事療法や運動療法などによって血糖をコントロールすることです。しかし、食事療法や運動療法を行っても血糖値をうまくコントロールできない場合には薬物療法を併せて行うことになります。 [食事療法] 糖尿病の治療の最も基本となるものです。食事は、満腹になるまで食べずに「腹七分目」に抑えます。そのためには、1日に“自分がどれだけ食べてよいか”という「適正エネルギー量」を知っておく必要があります。 患者様が1日に摂取する適正エネルギー量を求めるには、まず標準体重を求めます。 標準体重(Kg)=身長(m)×身長(m)×22 この標準体重に事務職など軽い仕事の人なら25~30を掛け、立ち仕事の多い人なら30~35、力仕事の多い人などでは35~40を掛けて、適正エネルギー量(Cal)を求めます。例えば、標準体重が60Kgの患者様が立ち仕事の多い仕事に従事されているとします。この方の一日の適正エネルギー量は、60(Kg)×30=1800(Cal)と求められるわけです。 この一日の適正エネルギー量を「糖質」「タンパク質」「脂質」を主にバランスよく摂取します。食事は決まった時間に1日3回に分けて規則正しく食べることが重要で、決して食事を途中で抜いたりしてはいけません。 [運動療法] 運動療法は、糖質と脂肪の両方を消費するのが目的です。それには「有酸素運動」が最適です。激しい運動は効果が少なく、ウォーキング(散歩、速歩)、サイクリング、水泳などがお勧めです。 1回の運動は最低でも20~30分間は運動し続け、これを毎日続けることが理想的ですが少なくとも週に2~3回は行うよう心掛けましょう。 [薬物療法] 食事療法や運動療法を行っても、空腹時血糖値が140mg/dl以上、糖化ヘモグロビン検査(ヘモグロビンA1c)では6.5%~7.0%以上の場合に薬を使い始めます。しかし、薬を飲み始めてからも、きちんと食事療法や運動療法を行っていないと、薬が効きにくくなり、血糖値をきちんとコントロールすることが難しくなります。また、薬物療法中は自己判断で自分勝手に薬を中断してはいけません。
本格的な冬を迎えいよいよ「冬将軍」の到来です。この季節で毎年悩まされるのが、招かざる敵「インフルエンザ」です。インフルエンザはいわゆる「かぜ」とは異なり、突如として強烈な流行が発生することが特徴で、過去「スペインかぜ」「香港かぜ」など世界中に大流行し、多くの死者を出したこともあります。またインフルエンザは単に個人の健康を損なうだけでなく大流行により仕事に支障が出たり、勉強が遅れるなど社会的にも重大な影響もきたします。では「インフルエンザ」とは一体どのようなものなのでしょうか?今回はインフルエンザについて簡単にお話ししてみましょう。 「インフルエンザ」はインフルエンザウイルスによって引き起こされ、突然39度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く、併せて咽の痛み、鼻汁などの上気道症状もみます。更に肺炎、心筋炎、脳炎など重大な合併症を引き起こし、死に至らしむこともある恐ろしい病気なのです。流行が始まると、短期間に小児から高齢者まで多数の人を巻き込むという点でも普通の「かぜ」とは異なります。 インフルエンザウイルスにはA、B、Cと3つの型がありますが、普通インフルエンザと呼ぶのはA型とB型インフルエンザのことです。特に激しい症状を来すのがA型インフルエンザで、A型は更にH(15種類)とN(9種類)で細かく分かれ、現在地球上で流行している型はAソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)の2種類です。しかしながら同じA型H1N1、A型H3N2でも微妙な違いがありこれが年によって微妙に変化するため、昨年インフルエンザにかかった人でも、今年微妙に違うウイルスが流行すればやはり今年もかかってしまう可能性があるわけです。このようにインフルエンザウイルスは毎年少しずつ性質を変えて襲ってきますので、世界中の専門家が情報を交換しながら、その年の冬に流行するタイプを予測し、ワクチンが準備されています。必ずしも100%発症を予防することは出来ませんが、近年予測が正確になってきたこともあり、かなりの発症予防効果があると言われています。しかし不幸にしてインフルエンザにかかってしまったら、或いはかかったかなと思ったら、なるべく早く医療機関にかかりましょう。ついつい「たいしたことない」「今日は忙しい」などと言ってお医者さんにかかるのが遅くなりがちですが、インフルエンザウイルスは体内に感染してから約24時間で症状が現れます。その間もウイルスはどんどん増殖しています。早めに医師に相談するようにしましょう。 近年、インフルエンザウイルスの抗原の有無を調べる検査キットが登場し、一般の医療機関で約15分という短時間で調べられるようになりました。今までのインフルエンザ治療は“熱や頭痛などの症状を抑えるための治療”でしたが、最近ではインフルエンザウイルスに働きかけて、ウイルスの増殖を阻害する「抗ウイルス薬」を用いた治療も行われるようになりました。しかしこれらは発症後24~48時間以内に投与されねば効果がないこと、一部の薬で耐性を将来来すのではないかという懸念、副作用のこと、またやはり一部の薬で健康保険の適応外であると言うことなどインフルエンザに対する治療の選択肢の拡大がみられたものの、まだまだ解決しなければならない点もいくつかあるというのが現状です。 最後に申し上げますが、基本的には昔から言われているように「うがい、手洗い、人混みをさける、無理をしない」など予防が最も大切であることは言うまでもありません。
新しい年度が始まりましたが、景気も依然として停滞気味で、気分も晴々しない今日この頃です。何かと気忙しく、周囲の色々な出来事に気を使い、その中でついつい忘れがちになっているのが自分自身の健康管理です。今回はある意味で「生活習慣病」の1つともいえる「がん」について話をしてみましょう。 3人に1人が癌で亡くなる時代となりました。最近(1999年)の厚生省の人口動態統計によると癌での死亡は年間29万人強となっており、総死亡数の29.6%を占めています。癌の死亡総数は前年と比べると6,600人程と増加傾向にあります。ちなみに癌の死亡数で一番多いのが肺癌、次いで胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌という順番になっています。 「がん」に有効的な治療と予防はないのでしょうか?抗癌剤、放射線治療も以前に較べ確実に進歩はしていますが、残念ながら一部の癌の治療を除き進行癌に対しては悲観的であるのが現状です。となりますと大事なことは早期発見・早期治療であります。最近では、検診・人間ドックにおいては検査機器や医療技術の発達により検査の精度も格段にアップしています。自覚症状が何もない健康な人が受診し、早期発見により、的確な治療がなされ完治した癌も数多く聞かれるようになりました。特に「がん」になりやすい体質(遺伝的、生活習慣的等)をもつ「ハイリスクグループ」の方などは毎年1回の受診を勧めます。以下に一般に行われている「がん検診」について簡単に羅列してみました。 胃癌検診:バリウムを飲んで造影X線検査が行われる。確定診断には内視鏡による2次検査が必要となる。 肝臓癌・膵臓癌検診:超音波検査(エコー)が行われる。血液検査は早期癌においては必ずしも異常がみられるとは限らない。 子宮癌検診:子宮頚癌に対しては細胞診による検診が有用であるが、子宮体癌に対しては有効な方法があるとはいえないのが現状。 乳癌検診:視触診による検診。マンモグラフィによる有用性が証明されている。 肺癌検診:単純X線検査、喀痰検査が行われているが限界が指摘されており、コストの問題があるものの、ヘリカルCT検査の有用性が提唱されている。 大腸癌検診:便潜血検査による。精検は注腸X線検査・大腸内視鏡検査が必要。 前立癌検診:血液中の「腫瘍マーカー」を調べる検査と直腸診による。 さていかがでしょうか?多くの方が一度は経験されているのと思いますが「一度だけ」では意味がなく、これを毎年継続していくことも大切なことなのです。 最後に「がん」の予防について、癌の15か条(出典:世界がん研究基金・米国がん研究会)を添えました。これを参考にしながら生活習慣を改善することも重要ではないかと思います。 癌の予防15か条 ○ 食品の供給、食事、関連因子 1.食品と食事・・・植物性食品を中心に 2.体重の維持・・・BMIが21~23の範囲に収まるように 5Kg以上体重が増加しないように BMI=体重(Kg)/身長(m)×身長(m)。22が標準体重 3.運動の維持・・・仕事であまり体を動かさない場合は、1日1時間の早足歩行と週に1時間の強い運動を ○食品と飲料 4.野菜、果物類・・色々な野菜や果物を1日に400~800g程度摂取する 5.他の植物性食品・穀類、豆類、根菜類を1日に600~800g程度摂取する。なるべく精製していないものを 6.アルコール飲料・積極的に勧められないが、飲むなら1日に男性で2杯(日本酒換算で1合)、女性では1杯(日本酒換算で5勺)まで 7.肉類・・・・・・赤肉は1日に80g以下、牛肉より魚肉、鶏肉がよい 8.全脂肪、油脂・・動物性の脂っこい食品をなくして、植物性脂肪を適度に摂取する ○食品加工 9.食塩・・・・・・1日に6g以下、塩辛い食品を避けて、ハーブやスパイスで調味する 10.貯蔵・・・・・・かびがはえないように貯蔵する。室温で長時間置かれたものは避ける 11.保存・・・・・・腐敗しやすい食品は冷蔵、冷凍保存する 12.添加物、残留物・食品添加物、残留農薬などは規制値以下なら健康に害はない 13.料理・・・・・・焦げた肉、魚などを避ける。なるべく直火で調理しない ○栄養補助食品 14.栄養補助食品・・この勧告に従えば栄養補助食品は不要である ○タバコ 15.タバコ・・・・・タバコを吸わない
そろそろ、夏本番となりました。この時期になると急激な腰の痛みで病院を受診する方が増えてきます。尿路結石は最近増加傾向にあります。1度この痛みを経験した人は2度と忘れないと言います。尿路結石とは、尿の中に溶けきれなくなったシュウ酸、リン酸カルシウムや尿酸といった物質が結晶となり、尿中に出てくる病気です。よく汗をかき、尿量が減り、色が濃くなり結晶ができ易くなります。症状は腰の鈍痛や激痛、血尿(肉眼で見て真っ赤でなくても、顕微鏡で見ると9割以上の患者に尿潜血を認めます)があります。腰痛は結石が腎臓から尿管に落ち、尿の流れが悪くなり腎臓がはれる(水腎症)ために起こります。そのため尿の流れがよくなれば、痛みは劇的に治まります。昔は尿路結石と言えば‘ビールを飲んで流せ’と言われましたが、実際はアルコールの利尿作用は一時的で、逆に腰痛発作を誘発し、かえって痛みが増すことがあります。診断は腎臓の超音波検査や排泄性尿路撮影(造影剤を使用します)などがあります。尿路は奇形が多く、そのために結石ができることもあります。血尿の原因には尿路結石以外に、腫瘍が見つかる場合があるので、早めに検査をお勧めします。治療は小さい結石であれば、水やお茶をたくさん飲んで尿で流すのが一番です。大きい結石やたくさんある場合には体外衝撃波や内視鏡で治療します。以前は、お腹を切るような手術は最近では減っています。最後に予防法として、結石ができやすい原因(ホルモン異常、尿路奇形や痛風)があれば、まずそれらを治療します。食事での予防法はいろいろありますがバランスのいい食事をし、水分をよくとって、尿をいっぱい(無色透明な色に近くなってきます)出すことが最大の予防法です。脱水の予防にもなります(心臓や腎機能の悪い方は飲みすぎないよう)。最近では遺伝的なことも解明され、家族に尿路結石の方が見えるときには注意してください。
かつては「国民病」と言われていた結核が再び力をもたげ始めようとしています。減少し続けてきた発生患者数が平成9年には38年ぶりに増加に転じ、厚生労働省は平成11年7月に「結核緊急事態宣言」をだしました。日本国内で年間4万人以上の患者が発症し、3千人近くの人が亡くなるという昨今、決して過去の病気とは言えなくなってきています。 この様な事態になった原因・背景として、過去に自然感染をしている70歳以上の高齢世代の方々が免疫力の低下により、眠っていた結核菌が再燃すること、その一方では結核未感染のいわゆる“免疫無き世代”の若年齢層の方々が罹患者と接触することで発症する、といったケースが増えてきています。 結核の初期症状は、軽い咳・痰、37℃台の微熱といった、いわゆる「風邪」とそっくりの症状です。咳が2週間以上続いたり、また、微熱が長く続くようであれば、風邪だと思い込まないで医療機関を受診するようにしましょう。 結核の診断は胸部単純X線撮影(レントゲン検査)、ツベルクリン反応等を参考として、喀痰検査による「結核菌」の検出で確定診断をします。 早期診断がなされれば、現在では治療法も確立されており、ほとんどの場合で完全に治癒することが可能です。守りさえしっかり固めれば結核も決して怖い病気ではなく、過度の心配や恐れをもつことはないのです。
日本人に多いといわれる高血圧。なかでも「高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満」の4つがそろうと、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な病気を招きやすくなります。そのため、これらの病態は、「死の四重奏」とも呼ばれ恐れられています。日本には『血圧が140/90mmHg以上』という高血圧の人が、約3400万人いるといわれています。これは赤ちゃんを含めた人口の約30%が高血圧であることを意味します。もっとも日本は、世界のなかでも高齢化が進んでいるため、70歳以上の約8割が高血圧といわれる昨今、お年寄りの人口が多い日本では、患者数が多くなるというわけです。 血圧には収縮期血圧(いわゆる“上の血圧”)と拡張期血圧(いわゆる“下の血圧”)があります。前者は心臓が収縮するときに生じ、後者は拡張するときに生じるためにそのように呼びます(最高血圧、最低血圧と呼ぶこともあります)。 高血圧とは収縮期血圧140mmHg以上、あるいは拡張期血圧90mmHg以上のときをいいます。日本高血圧学会では高血圧を血圧値により、「軽症高血圧」、「中等症高血圧」、「重症高血圧」に、一方、正常血圧も「正常高値血圧」、「正常血圧」、「至適血圧」に細かく分類しています。
分類 | 収縮期血圧(mmHg) | 拡張期血圧(mmHg) |
---|---|---|
至適血圧 | <120 かつ <80 | |
正常血圧 | <130 かつ <85 | |
正常高値血圧 | 130~139 はたは 85~89 | |
軽症高血圧 | 140~159 または 90~99 | |
中等症高血圧 | 160~179 はたは 100~109 | |
重症高血圧 | ≧180 はたは ≧110 |
高血圧があると脳、心臓、腎臓、血管に重大な合併症を生じます。ある町の統計では、収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHg以上で脳梗塞発症率が有意に増加しているという事実もあります。高血圧は日頃自覚症状がほとんどないため、血圧を測らなくては高血圧はなかなか発見されません。適切な治療がなされず放置すると、脳卒中や心臓病といった重大な結果を招くことになります。早期に高血圧を発見して、適切な治療を行うことにより、かかる合併症を予防することができます。 まず職場や地域での定期検診や医療機関で血圧を測定することが大切です。もし高血圧が疑われたならば、医師による評価や指導を受ける必要があります。高血圧治療の必要性と治療法は血圧値のみばかりでなく、合併症の有無やその種類によって異なりますので、自己判断は禁物です。 通常はまず生活習慣の改善から開始します。これは血圧を下げるのみだけでなく、心血管合併症の危険を軽減し、薬を服用中の方は降圧薬の量を減らすこともできるので、すべての高血圧患者さんに守っていただきたい基本です。生活習慣の改善では降圧目標に到達しないときには、薬物治療を開始します。これら高血圧治療法の選択には医師による判断がひつようですので、医療機関等に相談ください。
新年度を迎え、皆様は今年も住民検診や会社での検診を受けられることでしょう。毎年受診後にもらった個人票を眺めて一喜一憂されているのではないでしょうか?そこで今回は生化学・血液検査(その1)のいろいろな検査の目的と検査値の見方・読み方について簡単に解説してみましょう。
検査項目名 | 解説 | |
---|---|---|
中性脂肪 | 食餌中の主要な脂肪成分で動脈硬化の危険因子です。食事による変動が大きく、空腹時以外での採血は誤差が生じます | |
総コレステロール | 動脈硬化の危険因子で、原発性・続発性高コレステロール血症のスクリーニング検査です | |
HDLコレステロール | 血中に余ったコレステロールを肝臓に戻して動脈硬化を防ぐ働きをします。善玉コレステロールともいわれます | |
β―リポ蛋白 | 動脈壁へのコレステロールの沈着に直接関与しており、冠動脈硬化、虚血性心疾患の独立した危険因子です | |
尿素窒素 | 腎機能の指標として広く利用され、腎不全の他、消化管出血等で上昇します | |
尿酸 | 痛風の原因となる物質で、高値になれば、腎障害、尿路結石の原因にもなります | |
AST、ALT | 代表的な肝機能の指標。肝炎等肝細胞障害で血中に増加します。GOTはその他、心筋梗塞等の心疾患や、筋肉疾患でも増加します | |
TTT、ZTT | 肝障害を見るための代表的な血清膠質反応。慢性肝疾患等で上昇します | |
ALP | 肝・胆道疾患、骨疾患等で上昇を示す酵素です | |
γGTP | 肝・胆道疾患で上昇。アルコール性・薬剤性肝障害でも上昇します | |
ch-E | 肝臓で合成される酵素。肝炎や、有機リン剤中毒で低下、脂肪肝等で高くなります | |
T-Bil | 血中のヘモグロビンの分解産物。胆石,肝炎等肝・胆道疾患や溶血性貧血等、血液疾患で上昇します(黄疸) | |
LDH | 全身の組織や臓器に分布する酵素。肝臓・心臓・筋肉・血液疾患等で上昇します | |
TP | 栄養状態と肝・腎機能の指標。肝硬変やネフローゼ症候群等で低下し、脱水や多発性骨髄腫等で上昇します | |
Alb | 肝臓で合成される蛋白質。肝硬変など高度な肝障害では合成障害により、低下します | |
A/G | 血中のアルブミン(A)とグロブリン(G)の比を算出したもの、重症肝疾患やM蛋白血症等で低下、免疫不全症候群等で上昇します | |
Amy | 主に膵臓や唾液腺より分泌される消化酵素、急性膵炎や耳下腺炎等で上昇します | |
LAP | さまざまな臓器や胆汁中に広く分布する酵素。肝・胆道疾患で上昇します | |
血糖 | 血中のぶどう糖を測定し、糖尿病を診断します | |
HbA1C | 赤血球中にあるヘモグロビンとぶどう糖が結合してできるグリコヘモグロビンを調べる方法。過去1~2ヶ月の血糖コントロールの指標となります | |
白血球数 | 細菌感染症・炎症、慢性白血病等で増加。肝硬変症、無顆粒血症等で減少 | |
赤血球数 | 一定量の血中に含まれる赤血球数を示します。貧血で低下 | |
血色素量(ヘモグロビン) | 一定量の血中に含まれる血色素を示します。貧血で低下 | |
ヘマトクリット | 一定量の血中に含まれる赤血球の容積の割合。貧血で低下 | |
血清鉄 | 赤血球のヘモグロビンを構成する成分。欠乏で低色素性小球性貧血となります | |
血小板数 | 出血したときに血を止める働きをします | |
MCV、MCH、MCHC | 3者の相互の関係を比較して、貧血の種類を推測します |
検査値はおおよその目安で、少しくらい値が正常からはずれても、必ずしも異常や病気とはいえません(同じ検査項目でも機関によって、正常値が少し異なります)。判定は、医師が全てのデータと経過をみて総合的につけます。自分で勝手に悩まず、医師などに相談してください。多くの検査は、異常の疑いのある人を選ぶためのふるい分け(スクリーニング)のためです。「要精査」と仮に指示されても、余分な心配をせず二次検査を受けてください。万が一本当に「異常」であったとしても、毎年定期的に検診を受けていれば、早期に発見されたものであり、治癒する確率は高いと思います。
皆様は今年も住民検診や会社での検診、人間ドックを受けられましたか?毎年受診後にもらった個人票を眺めて一喜一憂されているのではないでしょうか?そこで前回に続き、感染症・免疫・X線・生理・尿のいろいろな検査の目的と検査値の見方・読み方について簡単に解説してみましょう。
検査項目名 | 解説 | |
---|---|---|
梅毒反応 | 性行為感染症(STD)として広く知られる梅毒の検査。生物学的擬陽性(本当は陰性)や治癒後も陽性として残ります | |
αフェトプロテイン | 肝細胞癌で上昇する血清腫瘍マーカー。肝癌以外でも肝炎や肝硬変でも軽度~中等度に上昇をみることもある | |
PSA | 前立腺癌で著明に増加する血清腫瘍マーカー。前立腺肥大でも軽度上昇をみることもあります | |
CEA | 大腸癌、肺癌(腺癌)、胆嚢癌等で上昇する腫瘍マーカー。喫煙でも軽度上昇を見ることもあります | |
HBs-Ag(HBs抗原) | B型肝炎ウィルスの現在の感染を示します | |
HBs-Ab(HBs抗体) | B型肝炎ウィルスの過去の感染を示します(陽性は治癒) | |
HCV抗体 | C型肝炎ウィルスに感染中か、過去に感染したことを意味し、陽性の場合C型肝炎ウィルスの存在を確認する必要があります | |
胸部X線検査 | 肺結核、肺癌などの肺疾患や心拡大を調べます | |
喀痰検査 | 肺癌の早期発見に役立てます | |
胃部X線検査 | 食道・胃・十二指腸癌の早期発見や、潰瘍・ポリープの診断に役立てます | |
心電図検査 | 不整脈・心筋梗塞・各種心筋疾患の有無を調べます | |
眼底検査 | 高血圧・糖尿病等による眼合併症や動脈硬化の有無を調べます | |
腹部超音波検査 | 肝臓・胆嚢・腎臓など腹部の臓器の状態を調べます(残念ながら胃・小腸・大腸の情報は得られません) | |
尿検査(糖) | 糖尿病の有無を調べるスリーニング検査です | |
(蛋白) | 腎臓疾患の有無を調べるスクリーニング検査です | |
(ウロビリ) | ビリルビンの代謝産物で、肝疾患や溶血性貧血等で陽性となります | |
(潜血) | 膀胱炎など尿路系の炎症・尿路結石・尿路系腫瘍や糸球体腎炎等腎疾患で陽性となります | |
(PH) | 通常は中性~弱酸性(食生活や激しい運動等で変動します)です |
検査値はおおよその目安で、少しくらい値が正常からはずれても、必ずしも異常や病気とはいえません(同じ検査項目でも機関によって、正常値が少し異なります)。判定は、医師が全てのデータと経過をみて総合的につけます。自分で勝手に悩まず、医師などに相談してください。多くの検査は、異常の疑いのある人を選ぶためのふるい分け(スクリーニング)のためです。「要精査」と仮に指示されても、余分な心配をせず二次検査を受けてください。万が一本当に「異常」であったとしても、毎年定期的に検診を受けていれば、早期に発見されたものであり、治癒する確率は高いと思います。
昨今、新聞紙上をにぎわしている前立腺癌についてお話します。前立腺は男性の膀胱の出口にあって、尿道をぐるりと取り巻いているクルミ大の臓器です。精液の一部(前立腺液)を分泌し、精子を保護することにより、生殖機能に重要な関りを持っています。前立腺が年齢とともに増大する前立腺肥大症は排尿障害を引き起こし、夜間に尿で起きたり、排尿しにくい等の症状を引き起こします。前立腺に癌が発生すると初期には自覚症状が乏しく、無症状の場合が多くあります。癌が進行するにしたがって前立腺肥大症と同じ症状が出てきますが、癌では肥大症ほど症状を強く感じない場合が多く、そのため病気の進行は気づきにくく、さらに癌が進行すると、全身の骨や、骨盤内のリンパ節に転移しやすいため、腰や肩の痛みで発見されることもあります。 前立腺癌はもともと欧米諸国に多い癌で、これらの国では、男性の癌の上位を占めています。特にアメリカでは発生率で1位、死亡率では肺癌についで2位となり、その対策が大きな問題となっています。日本ではここ30年余りで、驚くほど増加を示しており、男性の癌の上位に顔を出してきました。増加動向を見ると、20年後には、現在の3倍近くに増加すると予想されます。ここまで前立腺癌の発生が増える理由に、日本の高齢化が進んでいることです。前立腺癌の90%が60歳以上であるように、高齢者が増えれば患者数も増えてきます。ほかに生活様式が欧米化し脂肪接取量が増加していること等も挙げられます。 前立腺癌の治療は、一般的には転移のない癌(前立腺内にとどまっている場合)には高齢者を除き、前立腺を手術で取り除く方法が選ばれます。他に内分泌(ホルモン)療法、放射線療法、化学療法があります。もっとも多く用いられる方法は内分泌療法で手術や化学療法で見られる重い副作用が少なく、比較的安全な方法です。 前立腺癌は進行するのが遅く、最初の癌細胞ができてから、癌と気づかれる大きさになるまで、数十年はかかるとされています。そのため早期に発見することが、前立腺癌の対策では最重要課題とされています。診断には、一般診察に加え、腫瘍マーカー(PSA)測定、直腸内指診、経直腸的超音波断層法を組み合わせて行い、異常があると、前立腺の組織検査が行われて確定されます。初期には症状が乏しいため、50歳を超えたら、血液検査で腫瘍マーカー(PSA)の測定をすることをお勧めします。実際、集団健康診断で50歳以上の男性にPSAの測定を行っている地域があります。‘早期発見’に心がけてください。
蒸し暑い日本の夏の夜、寝不足ぎみの方も多いかと思います。 日常、睡眠は最高に幸せな時間であるには違いないが"生産性ゼロの全く無駄な時間"と考えてはいないでしょうか? 人は一生のうち三分の一の時間を睡眠に費やすといわれています。 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二種類があり、この二つの睡眠にはそれぞれ特徴があって、生体とその生活に必要な役割を分担しています。 ヒトの胎児は32週(40週で出生)頃から覚醒と睡眠が明確になるといいます。成熟した新生児は一日に16時間眠り、その50%がレム睡眠に割り当てられています。思春期に達すると、睡眠にともなって成長ホルモンや性ホルモンの分泌が増強して体や性の成熟が加速されます。 睡眠はこのように、私たちが日常的に感じている眠気や疲れを癒して心理的な満足度を与えてくれるだけでなく、知らず知らずのうちに肉体の成長や本能に深くかかわっているのです。 1. 儀牲になる睡眠時間 「時は金なり」、「早起きは三文の得」、「ナポレオンは一夜に3時間しか眠らなかった。眠りを克服するものこそ人生の勝利者だ」、「4当5落」などという言葉を皆さんは聞いたことがあるかと思います。 秒刻み、分刻みで物事が動き、競争が激化し、24時間稼動の時代となった今日では1年の三分の一を寝て過ごすということは夢となりました。寝る時間があったら少しでも長く起きていて、競争に勝ち抜こうというわけです。 冗談っぽい話ですが、ある学生さんは塾と家庭教師から攻め立てられるので、学校の休憩時間などに眠り、やっとのことで1日の総睡眠時間を3~4時間に調節しているとのことです。これは極端にしても学生ばかりでなく、若いタレントやアイドル歌手たちの1日の総睡眠時間は4~5時間といいます。皆激しい競争に打ち勝つために、一番眠りたい年頃の眠りを犠牲にして頑張っているのです。学生やアイドルだけでなく、企業戦士も自営業者も皆睡眠時間を犠牲にして、優劣、勝敗の競争社会で、必死に生き延びようとしているのが現状かもしれません。 このように寝る時間を削って成功する人は名声・賞賛を受け、財産・地位を得るのでしょうが、その陰には成功した人の何百倍あるいは何千倍の人が体を壊したり挫折したりしている事実があることも忘れてはなりません。 2. 睡眠・覚醒リズム ――生物時計と社会時計―― 人類はもともと昼行性動物であり、本来、日が昇るのと同時に起き上がり、日が沈むとねぐらに戻って眠るというサーカディアンリズムを基本とし、昼間でも満腹したり疲れたりすると勝手に眠るウルトラディアンリズムも取り入れた動物的な生活をしていました。ところが、現代的な社会生活を営むようになって、昼夜の別なく働き、睡眠時間が極端に短縮し、いくら眠くても勝手に寝たり、起きたりする自由はなくなってきているのです。 航空機が発達し、東京を夕刻出発したジャンボ機は、8時間後の同じ日の朝、サンフランシスコに到着します。その時刻は日本時間では、本当は翌日の午前2時ごろであり、人はその日、夜まで働くわけです。こうなると睡眠・覚醒のリズムだけでなく生活時計と社会時計との間にズレが生じるわけで、いわゆる"時差ぼけ"の状態に陥るわけです。 同じことが企業や病院などの勤務の二交代制(日勤と夜勤の繰り返し)にも当てはまり、社会時計と生活時計のズレが生じています。 人間は生物時計と社会時計がマッチしておれば快適に過ごせるが、現実には社会時計の比重が大きくなり、生物時計が歪められ、苛立ち、心身の不調を感じつつも為すすべなく毎日を送っているのが我々の現実の姿なのです。 3. 睡眠と成長 ――レム睡眠とノンレム睡眠との関連で―― 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二種類があることは先程述べましたが、この二種類の睡眠はそれぞれ特徴があって、生体とその生活に必要な役割を分担しています。レム睡眠は浅い眠りで、そのとき鮮明な夢を見ていることが多く、眼球がまぶたの上から見て分かるくらい大きく急速に動き、逆に筋肉の緊張が失われ、体の力が抜けてしまった眠りです(レムとは急速眼球運動 REM rapid eye movement の略です)。レム睡眠以外の睡眠をノンレム睡眠といいます。 生後三ヶ月頃から脳波は徐々に変化し、4歳くらいまで成長すると成人とほぼ等しい睡眠構造がみられるようになります。 昔から「寝る子は育つ」といわれています。確かに健康な赤ちゃんはいつ見ても眠っており、あっという間に大きくなります。これは発育に関係の深い「成長ホルモン」が眠っている間、特に深い眠りの持続中に多く分泌するからなのです。この事実が明らかにされた今日「寝る子は育つ」という言い伝えは、ことわざ以上に重みがあるように思われます。 子供は4~5歳になると否応なく社会時計の拘束を受けるようになり、成人と同じように一晩にノンレム睡眠、レム睡眠の周期を5~6回繰り返すようになります。成長ホルモンは眠って最初の一番深い眠りに伴って分泌量の最大ピークが現れます。そして、レム睡眠が始まると急激に減少して、朝までにノンレム睡眠が起こるたびに小さなピークを繰り返し、目覚めると、ほとんど分泌しなくなってしまいます。子供の成長にとっては、寝入り端の深い眠りが長く安定持続することが大切といえるかもしれません。 眠りを成長ホルモンとの関係で見ると、特に育ち盛りの子供にとっては単なる休息以上の重大な意味があり、成長促進のためには、できるだけ長時間眠れるような環境を整えることが重要であると考えます。 百歳以上生きた人は「くよくよせず、好き嫌いなく何でも食べ、適度の睡眠をとることが長生きの秘訣」といいます。「よく食べ、よく眠る」とは昔からよくいったものです。 次回は具体的な睡眠障害と、その対策について少し話をしていきたいと思います。
前回は睡眠について述べました。今回は睡眠の異常、そのなかでも特に不眠症について少しだけ述べます。 不眠は大きく次のようなタイプに分けられます。 入眠困難;床についてもなかなか眠りにつけないタイプ 中途覚醒;夜中に何度も目が覚め、その後眠れないタイプ 早期覚醒;明け方近くに早く目が覚めてしまい、それから眠れないタイプ 熟眠障害;眠りが浅くて、睡眠時間のわりに熟睡した感じがないタイプ 1~4のいずれかを誰もが経験したことがあると思いますが、だいたいの場合、イベントなどを前にした興奮や、商談や試験といった不安や緊張が背景にあることが多く、その場合、それさえ過ぎればぐっすり眠れることが多いと思います。このようないわゆる「一過性不眠」は心配する必要はありません。問題なのは、不眠の状態がだんだん悪化していき、長期間続くことで心身ともにダメージを受けてしまうことです。不眠症の背景にうつ病や神経症といったこころの病気が隠れていることもあり、このような場合は専門医の相談が必要かと思います。 不眠の背景に病気がある場合は医師の適切な治療とケアを受けることが必要ですが、一般に不眠はさまざまな、また些細な要因で起こるものです。自分の睡眠を妨げるものが何なのかを考え、できるものから改善していくとよいでしょう。 睡眠障害の診断・治療ガイドラインでは、12項目にわけて睡眠を改善するコツを以下のように要領よくまとめています。 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法 眠たくなってから床に就く、就寝時刻にこだわりすぎない 同じ時刻に毎日起床 光の利用でよい睡眠 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣 昼寝をするなら、午後3時前の20~30分以内 眠りが浅いときには、むしろ積極的に遅寝・早起きに 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意 十分眠っても日中の眠気が強い場合は専門医に 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全 いずれも実際の生活でとうてい実行不可能なものはありません。いちど試されてみてはいかがしょう。 睡眠にこだわるあまりに、「眠らなきゃ」というプレッシャーで不眠症に陥ることもしばしば経験します。「眠れなくてもいいや」と開き直ると意外に眠れるものです。“こころ”と“からだ”を「眠れない」というプレッシャーから開放してみましょう。おのずと心地よい眠りへと導かれていくでしょう。 なお、睡眠に関するホームページ「快眠推進倶楽部」(http://www.kaimin.info/)というものもあります。このホームページは、睡眠に関する専門の医師により組織された快眠推進委員会の公式サイトです。ご興味のある方は一度参考にされてはどうでしょう。
人の体内を流れている血液には、さまざまな物質が溶け込んでいて「脂質」もその1つです。脂質にはいくつかの種類があり、主に「コレステロール」と「中性脂肪」に分けられます。これらが血液中に増えすぎると、血液がドロドロになって体に悪影響を及ぼします。これが「高脂血症」です。日本人で高脂血症は50歳代で6割近いともいわれています。 脂質が必要以上に血液中にたまって高脂血症の状態になると、血管の内腔が狭くなる「動脈硬化」を引き起こします。この動脈硬化が心臓の血管に起こると「心筋梗塞」や「狭心症」、脳の血管に起こると「脳梗塞」といった、命にかかわる重大な病気につながります。 コレステロールは脂質なので、そのままでは血液には溶けません。ですから、水になじみやすい特殊なたんぱく質と結合して、粒子となって血液中を運ばれます。この粒子の主なものに、LDL(低比重リポたんぱく)やHDL(高比重リポたんぱく)があります。LDLは1つの粒子の中にコレステロールを比較的たくさん含んでいるもので、一般に「悪玉」といわれています。逆にHDLは、粒子の中のコレステロールが少なく、血液中からコレステロールを肝臓に運び出す働きをもち、「善玉」とよばれてもいます。 LDLに含まれるコレステロール(LDLコレステロール)は通常、血管壁の細胞に取り込まれ、一方、HDLは血管壁の細胞から余分なコレステロールを取り除く働きをしています。血液中のLDLが非常に多くなった場合、あるいはHDLが少な過ぎるような場合、LDLコレステロールは血管壁の細胞にどんどん取り込まれていきます。すると血管壁が肥厚し、血管の内腔が狭くなります。この部分に血栓(血の塊)ができて血管を塞ぐと、それが心臓の冠動脈であれば「心筋梗塞」、脳の血管であれば「脳梗塞」となります。 血液中のコレステロールや中性脂肪の増加には、食生活を含めた生活習慣や体質が深くかかわっています。肉の脂身や鶏卵、いくらなどコレステロールの多い食品を摂り過ぎるとコレステロールは高くなります。糖分やアルコールの摂り過ぎも肝臓での中性脂肪やコレステロールの合成を促進、たばこもHDLを低下させるので、やはりよくありません。また、運動は中性脂肪を分解し、HDLを増やすといわれており、運動不足も悪影響をあたえるといえましょう。さらに、閉経した女性も血液中のコレステロール増加を抑える女性ホルモンが減るため動脈硬化のリスクが高くなります。 高脂血症であるかどうかは、健康診断などで行われる血液検査の結果を見ればわかります。血液検査のなかで、高脂血症の指標となるのは「総コレステロール」「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」「中性脂肪」の4つです。LDLコレステロールは、一般の健康診断では出していないことが多いのですが、以下のように総コレステロールとHDLコレステロール、中性脂肪から計算することができます。 LDLコレステロール=総コレステロール-HDLコレステロール-(中性脂肪÷5) 日本動脈硬化学会の診断基準は表に示した如くですが、その人の危険因子(喫煙・高血圧・糖尿病など)の有無によってはさらに基準を厳しく治療目標を掲げています。 皆さんの血液は「ドロドロ」ではないでしょうか?
高脂血症の診断基準(日本動脈硬化学会) | ||
---|---|---|
総コレステロール | 220mg/dl以上 | |
LDLコレステロール | 140mg/dl以上 | |
HDLコレステロール | 40mg/dl未満 | |
中性脂肪 | 150mg/dl以上 |
上表の基準に1つでもあてはまる場合は「高脂血症」と診断される